2023-05-21
デイリー新潮 5/21
https://www.dailyshincho.jp/article/2023/05211131/
投手の投球間隔を短縮するピッチクロック、ベースサイズの拡大、極端な守備シフトの禁止……。
メジャーリーグでは次々と「新ルール」が導入されている。そんな中で今、“お試し期間中”の「新・指名打者制度」(以下=新DH制)の導入が正式に決まったら、最大の被害者となるのはエンゼルス・大谷翔平(28)である。
「ダブルフック(Double-Hook)と呼称された新しいDH制度が、メジャーリーグ機構と提携する米・独立リーグのアトランティックリーグで試験導入されました。今のところ、大きな混乱は起きていません」(在米ライター)
ダブルフックを直訳すると、「2つに引っかかる」となる。その2つとは、先発投手とスタメンのDH選手。先発投手が5イニングを投げきれずに降板する場合、「スタメンDH選手の打順に入って9人制にする」か、「スタメンDH選手の次打席で必ず代打を使わなければならない」というもの。
メジャーリーグでは、新ルールを導入する前に提携先の独立リーグやマイナーでテストを行う。いまのところ、この新ルールでは「混乱はない」とのことだが、もしこの新DH制が導入されたら、どうなるのか?
二刀流の大谷は「打者」で出場する際はDHだ。「投手・大谷」以外のエンゼルス先発陣は不甲斐ないため、ダブルフックの巻き添えで途中交代させられてしまう。「打者・大谷」の打席数は激減し、ホームランも打点も「並みの選手」の数字しか残せないだろう。
「そもそも、メジャーリーグが色々とルールを変更してきた背景に『試合時間の短縮』という目的があります。テレビ中継するにしても、サッカーのように試合終了時間が読めないため、テレビ局側が難色を示すのです。オリンピックで野球・ソフトボール競技が公式種目から消えたのも、不明瞭な試合時間が影響しています」(前出・同)
また、ダブルフックDH制には経営陣と選手会の労使抗争も関係していた。
2022年シーズンより、MLBナ・リーグでも正式にDH制(通常)が採用されることが決まった。同年3月に締結された新・労使協定にそのことが入っていたのだが、DH制導入を強く求めるMLB選手会とは対照的に、経営陣は最後まで難色を示したという。
「20年シーズン、コロナ禍による投手の負担軽減策として、『9人制ルール』だったナ・リーグでもDH制を採用することになりました。DH制を採用すれば、ナ・リーグの経営陣はDHで出場する打撃専門の選手をさらに雇うことになります。MLB選手会は働き場所が増えること、ナ・リーグ球団所属の投手は打撃面での負担がなくなるので大歓迎でした」(現地メディア関係者)
同年、MLBはDH制のルール改定も行った。同一選手が「先発投手」と「指名打者」を兼任できるようにし、先発投手として交代が告げられた後でも、DH選手として試合に出続けることが可能となった。前年のMLBオールスターゲームで採用され、好評だったので22年より“本採用”となったのだが、この恩恵を受けたのは二刀流の大谷だけと言っていい。
「これが俗に“大谷ルール”と呼ばれています。21年球宴でも二刀流の大谷を打者、投手両方で出場させるために作られたもので、22年8月開催の国際大会『第5回WBSC U-15ワールドカップ』、今年3月のWBCでも大谷ルールが採用されています」(前出・同)
それがここにきて、ダブルフックDH制に変更される可能性が出てきたわけだ。しかし、現場では混乱はないものの、好評を得るまでには至っていないそうだ。
「ダブルフックDH制は22年のナ・リーグのDH制採用が影響しているんです。導入を強く求めた選手会と、反対だった経営陣の折衷案とされています」(前出・米国人ライター)
メジャーリーグ公式HPでは、ダブルフックDH制を試験導入した目的は説明されていない。しかし、近年のメジャーリーグでは先発投手の人数不足を補うため、リリーフ投手を総動員させる「ブルペンデー作戦」や、先発投手を1、2イニングで交代させ、継投策で戦う「オープナー策」も定着している。ダブルフックDH制の導入が決まれば、現場で苦慮して編み出したこれらの作戦が使えなくなってしまう。
「ダブルフックDH制のほかに、ピッチャーズプレートとホームベースの間の距離 60フィート6インチ(18.44メートル)を、61フィート6インチ(約18.75メートル)に広げる案、スタメン出場していない選手の代走を常時認める指名代走、誤審を防ぐためのAI審判、牽制球は打者1打席につき1球などもテストされています。ピッチャーズプレートを後方に下げるのは、『投高打低』の状況を変えるためで、指名代走は『個性、長所』を延ばし、出場機会を増やすためだというのが理由です」(前出・同)
https://www.dailyshincho.jp/article/2023/05211131/
投手の投球間隔を短縮するピッチクロック、ベースサイズの拡大、極端な守備シフトの禁止……。
メジャーリーグでは次々と「新ルール」が導入されている。そんな中で今、“お試し期間中”の「新・指名打者制度」(以下=新DH制)の導入が正式に決まったら、最大の被害者となるのはエンゼルス・大谷翔平(28)である。
「ダブルフック(Double-Hook)と呼称された新しいDH制度が、メジャーリーグ機構と提携する米・独立リーグのアトランティックリーグで試験導入されました。今のところ、大きな混乱は起きていません」(在米ライター)
ダブルフックを直訳すると、「2つに引っかかる」となる。その2つとは、先発投手とスタメンのDH選手。先発投手が5イニングを投げきれずに降板する場合、「スタメンDH選手の打順に入って9人制にする」か、「スタメンDH選手の次打席で必ず代打を使わなければならない」というもの。
メジャーリーグでは、新ルールを導入する前に提携先の独立リーグやマイナーでテストを行う。いまのところ、この新ルールでは「混乱はない」とのことだが、もしこの新DH制が導入されたら、どうなるのか?
二刀流の大谷は「打者」で出場する際はDHだ。「投手・大谷」以外のエンゼルス先発陣は不甲斐ないため、ダブルフックの巻き添えで途中交代させられてしまう。「打者・大谷」の打席数は激減し、ホームランも打点も「並みの選手」の数字しか残せないだろう。
「そもそも、メジャーリーグが色々とルールを変更してきた背景に『試合時間の短縮』という目的があります。テレビ中継するにしても、サッカーのように試合終了時間が読めないため、テレビ局側が難色を示すのです。オリンピックで野球・ソフトボール競技が公式種目から消えたのも、不明瞭な試合時間が影響しています」(前出・同)
また、ダブルフックDH制には経営陣と選手会の労使抗争も関係していた。
2022年シーズンより、MLBナ・リーグでも正式にDH制(通常)が採用されることが決まった。同年3月に締結された新・労使協定にそのことが入っていたのだが、DH制導入を強く求めるMLB選手会とは対照的に、経営陣は最後まで難色を示したという。
「20年シーズン、コロナ禍による投手の負担軽減策として、『9人制ルール』だったナ・リーグでもDH制を採用することになりました。DH制を採用すれば、ナ・リーグの経営陣はDHで出場する打撃専門の選手をさらに雇うことになります。MLB選手会は働き場所が増えること、ナ・リーグ球団所属の投手は打撃面での負担がなくなるので大歓迎でした」(現地メディア関係者)
同年、MLBはDH制のルール改定も行った。同一選手が「先発投手」と「指名打者」を兼任できるようにし、先発投手として交代が告げられた後でも、DH選手として試合に出続けることが可能となった。前年のMLBオールスターゲームで採用され、好評だったので22年より“本採用”となったのだが、この恩恵を受けたのは二刀流の大谷だけと言っていい。
「これが俗に“大谷ルール”と呼ばれています。21年球宴でも二刀流の大谷を打者、投手両方で出場させるために作られたもので、22年8月開催の国際大会『第5回WBSC U-15ワールドカップ』、今年3月のWBCでも大谷ルールが採用されています」(前出・同)
それがここにきて、ダブルフックDH制に変更される可能性が出てきたわけだ。しかし、現場では混乱はないものの、好評を得るまでには至っていないそうだ。
「ダブルフックDH制は22年のナ・リーグのDH制採用が影響しているんです。導入を強く求めた選手会と、反対だった経営陣の折衷案とされています」(前出・米国人ライター)
メジャーリーグ公式HPでは、ダブルフックDH制を試験導入した目的は説明されていない。しかし、近年のメジャーリーグでは先発投手の人数不足を補うため、リリーフ投手を総動員させる「ブルペンデー作戦」や、先発投手を1、2イニングで交代させ、継投策で戦う「オープナー策」も定着している。ダブルフックDH制の導入が決まれば、現場で苦慮して編み出したこれらの作戦が使えなくなってしまう。
「ダブルフックDH制のほかに、ピッチャーズプレートとホームベースの間の距離 60フィート6インチ(18.44メートル)を、61フィート6インチ(約18.75メートル)に広げる案、スタメン出場していない選手の代走を常時認める指名代走、誤審を防ぐためのAI審判、牽制球は打者1打席につき1球などもテストされています。ピッチャーズプレートを後方に下げるのは、『投高打低』の状況を変えるためで、指名代走は『個性、長所』を延ばし、出場機会を増やすためだというのが理由です」(前出・同)