2023-06-10
『教養としての「病」』
AERAオンライン限定
2023/06/09 11:00
筆者:佐藤優,片岡浩史
作家で元外務省主任分析官の佐藤優さんが、病について、そしてその先にある死について、主治医の片岡浩史さんと語り合った。『教養としての「病」』から、一部を紹介する。
■なぜ、私は「余命宣告」をするのか
佐藤優 今回本書のテーマに掲げたのは「教養としての“病”」ということです。「病気の知識は教養なのか?」という疑問を持つ人もいるかもしれませんが、圧倒的大多数の人たちは病気によって亡くなるのですから、
誰もが病気について広く知っておかなければいけません。病気の最終的なゴールである死についても、目を背けずよく考えておく必要があります。いずれの場合も、人生の早い時期から始めておくことが望ましいでしょう。
ところが、現実にはそういう人たちは決して多くありません。そこに一石を投じたいということが今回の企画のスタートポイントでした。
片岡浩史 どんな病気であれ、ある一瞬に突然発生するものではありません。自覚症状が現われるのはある一瞬かもしれませんが、その萌芽はそれよりずっと前にあるわけです。
たとえば腎臓病の場合、50歳の人が自覚症状を訴えたとき、その原因は20代から始まった生活習慣だった、というケースはよくあります。
若くて元気なうちは、みんな病気のことなんて意識しませんよね。しかし、若くて元気なうちにこそ病気を防ぐことを日常的に意識しなければいけない、というのが私の考えです。そのためには、病気の先にある死についても意識する必要があります。今回の対談ではそこを読者のみなさんにお伝えできれば、と思っています。
佐藤 片岡先生は初診の患者に対して「余命宣告」をされていますよね。
片岡 はい。腎臓病は無症状のまま長い年月をかけて進行していく病気で、患者さんがその恐ろしさを自覚しにくいという特徴があります。「患者さんが自覚した時はもう手遅れ」、となることが多いため、私は意識的に、比較的早い段階で「その患者さんの予想される余命」についてお話をするようにしています。
特に、20代から40代で肥満がある人は悪化するリスクが相当に高いので、厳しく言うんです。「このままだとあと何年しか生きられません。今の生活習慣は絶対に改めなければいけません」と。
私は今日まで、手遅れの状況になってはじめて事の重大さに気づいて、辛く悲しい思いをする患者さんをたくさん見てきました。そうはなってほしくないから強く言うわけです。
たとえ肥満の腎臓病患者であっても、若いうちから減塩や減量にしっかり取り組めば、健康長寿を実現することもできるということが重要です。
佐藤 慢性腎臓病はゆっくりと進行していきます。自覚症状も基本的にはない。ですから、軽症の患者は危機感を持ちにくいですよね。
片岡 そうなんです。無症状ということでは同じでも、「あなたは癌です」と言われたときは誰もが強い危機感を持つのでしょうが、腎臓病は必ずしも重く受け止められません。
しかし、症状が進行して人工透析に移行すれば、実は男女ともに平均余命がおよそ半分になってしまいます。たとえば50歳から人工透析を始めた男性の平均余命は14.6年です。4捨5入して、65歳までしか生きられないわけです。
これに対して、一般男性の平均余命は30.5年。つまり、約81歳まで生きられる。その意味では、腎臓病は癌に匹敵するような恐ろしい病気だと言えます。
佐藤 腎臓病は「悪化」という1方向にしか進んでいきません。完治する、ということがないわけです。ようするに、一生ずっと病気と付き合い、一生ずっと病気について考え続けなければいけない。
これは多くの癌や糖尿病も同じです。今は若くて健康な人であっても、国民的な病気については教養としてあらかじめ知っておくべきなんです。
片岡 まったく同感です。ですから、私は今回、佐藤さんがご自身の病気についての本を出版することになったのは、とてもありがたいことだと思っています。佐藤さんが世に発信することによって、腎臓病をはじめとするさまざまな病気について新たな知見を得る人が、何万人という単位で増えることを期待しています。
===== 後略 =====
全文は下記URLで
https://dot.asahi.com/aera/2023060600065.html?page=2
AERAオンライン限定
2023/06/09 11:00
筆者:佐藤優,片岡浩史
作家で元外務省主任分析官の佐藤優さんが、病について、そしてその先にある死について、主治医の片岡浩史さんと語り合った。『教養としての「病」』から、一部を紹介する。
■なぜ、私は「余命宣告」をするのか
佐藤優 今回本書のテーマに掲げたのは「教養としての“病”」ということです。「病気の知識は教養なのか?」という疑問を持つ人もいるかもしれませんが、圧倒的大多数の人たちは病気によって亡くなるのですから、
誰もが病気について広く知っておかなければいけません。病気の最終的なゴールである死についても、目を背けずよく考えておく必要があります。いずれの場合も、人生の早い時期から始めておくことが望ましいでしょう。
ところが、現実にはそういう人たちは決して多くありません。そこに一石を投じたいということが今回の企画のスタートポイントでした。
片岡浩史 どんな病気であれ、ある一瞬に突然発生するものではありません。自覚症状が現われるのはある一瞬かもしれませんが、その萌芽はそれよりずっと前にあるわけです。
たとえば腎臓病の場合、50歳の人が自覚症状を訴えたとき、その原因は20代から始まった生活習慣だった、というケースはよくあります。
若くて元気なうちは、みんな病気のことなんて意識しませんよね。しかし、若くて元気なうちにこそ病気を防ぐことを日常的に意識しなければいけない、というのが私の考えです。そのためには、病気の先にある死についても意識する必要があります。今回の対談ではそこを読者のみなさんにお伝えできれば、と思っています。
佐藤 片岡先生は初診の患者に対して「余命宣告」をされていますよね。
片岡 はい。腎臓病は無症状のまま長い年月をかけて進行していく病気で、患者さんがその恐ろしさを自覚しにくいという特徴があります。「患者さんが自覚した時はもう手遅れ」、となることが多いため、私は意識的に、比較的早い段階で「その患者さんの予想される余命」についてお話をするようにしています。
特に、20代から40代で肥満がある人は悪化するリスクが相当に高いので、厳しく言うんです。「このままだとあと何年しか生きられません。今の生活習慣は絶対に改めなければいけません」と。
私は今日まで、手遅れの状況になってはじめて事の重大さに気づいて、辛く悲しい思いをする患者さんをたくさん見てきました。そうはなってほしくないから強く言うわけです。
たとえ肥満の腎臓病患者であっても、若いうちから減塩や減量にしっかり取り組めば、健康長寿を実現することもできるということが重要です。
佐藤 慢性腎臓病はゆっくりと進行していきます。自覚症状も基本的にはない。ですから、軽症の患者は危機感を持ちにくいですよね。
片岡 そうなんです。無症状ということでは同じでも、「あなたは癌です」と言われたときは誰もが強い危機感を持つのでしょうが、腎臓病は必ずしも重く受け止められません。
しかし、症状が進行して人工透析に移行すれば、実は男女ともに平均余命がおよそ半分になってしまいます。たとえば50歳から人工透析を始めた男性の平均余命は14.6年です。4捨5入して、65歳までしか生きられないわけです。
これに対して、一般男性の平均余命は30.5年。つまり、約81歳まで生きられる。その意味では、腎臓病は癌に匹敵するような恐ろしい病気だと言えます。
佐藤 腎臓病は「悪化」という1方向にしか進んでいきません。完治する、ということがないわけです。ようするに、一生ずっと病気と付き合い、一生ずっと病気について考え続けなければいけない。
これは多くの癌や糖尿病も同じです。今は若くて健康な人であっても、国民的な病気については教養としてあらかじめ知っておくべきなんです。
片岡 まったく同感です。ですから、私は今回、佐藤さんがご自身の病気についての本を出版することになったのは、とてもありがたいことだと思っています。佐藤さんが世に発信することによって、腎臓病をはじめとするさまざまな病気について新たな知見を得る人が、何万人という単位で増えることを期待しています。
===== 後略 =====
全文は下記URLで
https://dot.asahi.com/aera/2023060600065.html?page=2